2010年10月31日

9月 龍王峡むささびコース

雨また楽し。
幽玄なる龍王峡にて、仙人気分。


「湯」から「愉」へ。
ぶらり気まぐれ逍遥。

2010年9月某日

「此処には鬼だけでなく龍も居りますよ」
まだ夏の名残の暑さが残る9月、話上手なホテル従業員の会話からふと湧いた興味でチェックアウトのあと「龍王峡」へ足を伸ばしてみることにした。「龍王峡」は今から約2,200万年前の海底火山の爆発で形成された渓谷で、千変万化な景観美から全国観光地百選渓谷の部で第5位に選ばれた奇勝らしい。

目指す渓谷へはホテルから鬼怒川温泉駅まで歩き、そこから東武鬼怒川線・会津高原尾瀬口行電車で約15分の「龍王峡駅」で下車。聞いた話どおり駅前に土産物屋が並ぶ市営駐車場の奥に見える石造りの鳥居がどうやら入口のようだ。パーキングの一角には大木の洞の中に「龍王観音」も祀られている。道すがら滝見茶屋のお兄さんの「谷めぐりですか?行ってらっしゃい」の声に軽く右手を挙げて応える。空は晴天とまではいかないがまずまずのご機嫌。入口のコースMAPにあった約3kmの最短周遊コース、むささび茶屋まで今日は行ってみることにした。

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緑したたる、虹見の水際にて。

涼しげな緑陰のなか、つづら折りの急な階段を半分ほど降りると、辺りは一瞬にして轟々と唸りをあげる滝の音色と水の香りに包まれる。やがて緑の間に見え隠れするように小さな御堂「五龍王神社」が見えてくる。御堂の傍らには唸音の正体「虹見の滝」が勇壮な姿で水煙を上げている。落差20mを誇る虹見の滝はその名のごとく晴れた日には傍らにある木橋「虹見の橋」から陽光に輝く虹が見えるという。残念ながら今日はその出会いには恵まれなかったが、滝と神社、切り立った渓谷が織りなす日本画のような美しさに早くも嬉しく期待を裏切られ、写真を撮ることも忘れ見惚れてまった。説明書きによればこの辺りの渓谷の岩盤が比較的柔らかいため、本流の河床が次第に浸食されて滝になっているのだという。付近の流入河川はこうして滝を形成し、それが龍王峡の景観を変化に富んだものにしている。

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森の散歩道で、しばし少年気分。
モリアオガエルを訪ねて。


滝を過ぎるとそこから先は鬱蒼とした森がしばらく続く。大人ひとりがやっと通れる狭道や、木根を足がかりにする少々健脚な道はちょっとした冒険気分。道の途中には吹き出る汗をクールダウンしてくれる、断崖絶壁の対岸の小滝を望む見晴らしポイントが点在している。国の天然記念物「モリアオガエル」の生息地である“底なし沼”では、2度めの休憩がてら清らかな水面に目を凝らしてみたものの、沼の主は今日は留守のようだ。

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沼を抜けると突然視界が広がる。ブナ林特有の明るい翠の森だ。

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道も歩きやすく平坦になり、小川に寄り添うように続く木道を歩きながら、谷を渡るキセキレイのさえずりに思わず鼻歌も飛び出してくる。周囲は初秋らしい草もみじのやわらかな黄金色に包まれ、どこか懐かしい記憶を辿るような不思議な感覚を覚えた。


水の香り、雨の音色。
龍王との密やかな交歓。


そろそろコースの佳境、龍王峡一の絶景だと言われる「むささび橋」もまもなく。と思った矢先、突然の驟雨。慌てて持参してきたウインドブレーカーをはおり傘を開いた。辺りは一気に濃密な草いきれに包まれていく。空から真っ直ぐに降りてくる雨が森をつややかに濡らすのを眺め、恵みの雨を金剛石に例えた宮沢賢治の童話を思い出した。急ぐ旅でもなし、と、しばらくその場に立ち止まりじっと雨音に聴き入ってみる。季節を映す何万通りもの翠の色があるように、雨の音にもそれぞれにリズミカルな旋律がある。

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全長約6kmある渓谷は岩質の色の違いからそれぞれ紫龍峡、青龍峡、白龍峡の呼び名があるらしい。案内ガイドによれば此処「むささび橋」が白龍峡と青龍峡との丁度境目とのこと。なるほど、確かに橋から望む上流と下流とでは怪石の色も少し違うようだ。濛々と湯気のように立ち込めた靄に幽玄の世界と化した渓谷に佇めば心地はまさに仙人気分。渓谷の中でも最も人気の高いその景勝は迫力も美しさもまさに噂以上。思わずふうっと、ついたため息が靄に溶けていく。


腹に沁み入る、一杯の心太。
雨やどりの談笑。


橋を渡り切った対岸には、このコースの折り返し地点となる「むささび茶屋」があった。茶屋の親爺は初老の男性。親爺がこしらえた心太を食べながら、雨足がおさまるのを待つ。こんなゆったりとした雨やどりも一興。聞けばこの茶屋を独りで切り盛りしているらしく、もう20数年、毎日この茶屋に通い続けているのだと言う。散策路が傷んでいれば修繕しながら来るよ、好きじゃないとできない商売、季節に同じ景色は一度もないからねぇ、の一言が心に残った。

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雨音が弱まるのを少し待ったあと茶屋を後にする。復路は往路と違い道幅は狭いが高低差も少なく、平坦な道が続く。年配者など足に自信のない人にはおすすめだ。途中、ミズバショウが自生する湿地や斉藤茂吉の「念じれば、花と咲く」の句碑もある。往路で出会った滝を今度は逆対岸から眺めるスポットもあり、くぼみにはまった岩が水にもまれて地盤を丸く削り取った「かめ穴」など、自然が創り出したユニークな芸術作品を探しながらの谷歩きも楽しい。

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気が付けばいつの間にか雨は止み、雨音を引き継ぐかのように瀑布の音色が迫っていた。コース完歩の私を激励する「竪琴の滝」は、どの滝よりも水量が豊富で文字通り竪琴の弦のような幾つもの白糸を垂れている。そういえば七福神で言えば川の神であり音楽の神は弁財天だ。なるほど、目の前に広がる滝の姿はいかにも女性らしい優美でさとたおやかさにあふれている。女神の奏でる音楽に聴き惚れながら、ゆっくり歩いた今日一日を振りかえってみる。「虹見の橋」の欄干に、雨上がりの陽射しがレースのような木漏れ日模様を描いている。

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パーキングに戻って腹が空き、はっと気付いて時計を眺める。出発から約1時間半。そういえば途中、一度も時間を気にしていなかった。頭上を仰げば空は秋の透明な高さを取り戻していた。次回は青龍峡、いや紫龍峡まで足を伸ばしてみるか。いつになくはやる気持ちは、暴れ龍が棲む神々の渓谷がくれたやっかいな置き土産かもしれない。


【龍王峡/むささび巡回コース】詳細


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■龍王峡

暴れ龍を思わせるダイナミックな渓谷美。

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約2,200万年前、海底火山の活動により噴出した火山岩が、その後の造山運動により流起し、さらに浸食作用により出来たもので、紫龍ヶ淵の上に火山灰が堆積してできた青龍峡、さらにその上に白っぽい流紋岩が流出した白龍峡と、噴出した岩の色の違いにより「白龍峡」「青龍峡」「紫龍峡」と呼ばれている。虹見の滝から川治温泉に至る全長6kmのコースは所要時間約3時間の渓谷散策路で、奇岩怪石が創り出す千変万化な景観は、全国観光地百選渓谷の部で第5位にも選ばれた。散策路沿いには文学碑も点在し、栃木県の県花であるやしおつつじをはじめ、キセキレイやヤマセミ、カワセミ、カワガラスといった谷川に住む野鳥など、気軽に自然と触れ合いながら心身リラックスできるヒーリングスポットとしても観光客の人気を集めている。


■白龍峡
白い岩肌とエメラルドグリーンの水面。

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虹見橋を川の西側に渡ったあたりからむささび橋付近まで。両岸の岩々が白っぽい流紋岩から形成されたエリア。春には水芭蕉の花も見られる。


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◎虹見の滝
晴れた日には野沢からの清流が光の具合で虹をかけ、虹見の滝となって鬼怒川に流れおちる。


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◎竪琴の滝
竪琴の弦のように清らかな水が幾筋にも分かれて流れることから命名。


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◎底なし沼
日本の固有種であるモリアオガエが生息する沼。モリアオガエルは成体の多くが樹上で生活し、5〜6月の繁殖期には池のほとりの樹上にて産卵。羽化した卵は水中に落ちて幼生となる。


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◎かめ穴
別名「おう穴」と呼ばれ、峡谷がかつて川底だった頃、流されてきた石がくぼみにはまり、渦巻きの流れの中でくぼみを削り造られた穴。



■五龍王神社
声に出して唱えた願いが叶う。

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文政8(1825)年に宇都宮明神前の仏師、高田運秀、喜代助の合作により彫刻され、もともと高原山に祀られていた龍王像を龍王神の「野沢川落合」に祀るべしとの神託により、この龍王神を祀った神社。断崖からの展望と、背後に流れ落ちる虹見の滝の絶好の撮影ポイント。学問・人生開運・産業・五穀豊穣のご利益があり、願い事は声に出して参拝すると叶うと言われている。



■虹見橋
落差20mの虹見の滝を望むスポット。

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龍王峡の散策コースの南の入口に位置し、虹見の滝、龍王渓谷、五龍王神社を望む美観スポット。
橋上から眺める上流と下流の変化に富む渓谷美は必見。



■むささび橋
龍王峡一の圧巻パノラマ。

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龍王峡自然研究路の中心付近に架かる橋。橋の上から眺める龍王峡の景色は圧巻。橋のたもとには「むささび茶屋」があり、一休みすることができる。むささび橋から上流にかけては青みが買った緑色凝灰岩の青龍峡エリアとなり、川幅が狭くなりごつごつした奇岩・奇石のある渓谷の景色が続く。


posted by kinugawaaruku at 13:00 | 日記 | 更新情報をチェックする
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