2010年12月01日

11月 白岩半島から虹見の橋へ

刻々と変わる一幅の絵画。
色鮮やかな落葉たちの競演。

2010年11月某日

龍王峡を再び訪れたのは、秋も深まった11月。まぶしいほどの晴天の下、紅葉の見頃を迎えた渓谷は多くのハイカー達で賑わっていた。今回は鬼怒川温泉駅前から川治温泉行の路線バスで約15分、白岩バス停にて下車。鬼怒川の上流から下流へ、以前歩いた道のりを逆行するコースで歩く。
バス停のある国道121号から、やや急勾配のつづら折りの遊歩道を300mほど下る。と、目の前に「右が白岩半島、左が紫龍峡」と書かれた看板が現れた。名前の好奇心も手伝い、まずは「白岩半島」へ向かってみることにした。

1 白岩バス停 s.jpg2 白岩 龍王峡入口 s.jpg


郷愁をそそる山里の山河。
龍王峡のもうひとつの横顔。


平坦な森の中に整備された遊歩道を5分程歩くと、そこには岩の公園とも呼ばれ奇岩怪石が連なる龍王峡のイメージを覆す広い河川敷が広がっていた。やわらかな陽光を受けひときわ色を増した山の南斜面と、光る川面が織りなす色彩はウィリアム ターナーの風景画を思わせる。遠く河岸に腰を下ろし、うっとりと景色を眺めるハイカーたちの姿につられ、一団との合流を目指して歩く。たどり着いた河岸で挨拶を交わしたあと、河原におりて私も名画の一部になってみた。紫龍峡から白岩半島までは周囲の山が幾重にも連なり、どこか懐かしい記憶のような景色が広がっている。

6 白岩半島 小道2 s.jpg8 白岩半島 遠景2 s.jpg10 白岩半島 川遊び2 s.jpg11 白岩半島 突当 s.jpg15 紫龍峡から白岩半島を望む s.jpg13 白岩半島 奥への道 s.jpg

全国的な猛暑が続いた2010年の夏。情報では今年の鬼怒川の紅葉は例年の10月末から一週間から10日程度遅いようだ。しかも、急激な冷え込みで途中で落葉したり、逆に猛暑の影響で鮮明な色が出ずに枯れ葉になっている地域もあるという。とはいうものの、龍王峡の道のところどころには目を見張る美しさが訪れる人の心を癒してくれる。紅葉には人の心を浄化をする力があるようだ。そんな感懐を抱きながら再びもと来た道を戻る。白岩半島の散策路は川治温泉へと続いているようだが、今日は予定どおり下流へと足を向ける。


圧倒的迫力の時の語り部。
大自然芸術との出会い。


紫龍峡に入ると岩は大きさを増し、絢爛豪華な紅葉が織りなす迫力が目前に迫ってくる。すれ違ったハイカーの熟年夫婦のご婦人が、時折立ち止まってはつぶやくように感嘆の言葉を連発している。足の裏に心地よい弾力を伝える落葉の絨毯は、おろしたてのフランネルのようにフカフカとやわらかだ。やがて「かめ穴」の説明版にたどり着いた。見下ろすと川を挟んで対岸の岩壁に、前回歩いたむささびコース同様、半球状の丸い穴、通称「かめ穴」が見える。これは峡谷がかつて川底だった頃、くぼみにはまった石が渦巻きの流れによって岩盤を削り取った自然の造形物だと言う。このあたりの渓谷で見られる有機的な岩々の姿は、遥かなる時の中で自然が紡いできた言葉なのだろう。

16 紫龍峡 道1 s.jpg16 紫龍峡 道2 s.jpg17 青龍峡 かめ穴 s.jpg

「かめ穴」からしばらく歩くと「兎はね(とはね)」というちょっと奇妙な名前の景勝地に着く。何でも河床の幅が4m程の廊下状になっており、ウサギが跳ねて飛び越えられる程に狭くなっていることから、この名が付いたらしい。説明ではこの付近の岩質は硬く、河川の水流が川底を浸食する作用に耐えたことがこの形状になったとのこと。周囲は龍王峡の中は青龍峡と呼ばれ、その名のとおり青みがった岩肌の景勝が、一種独特な世界を形作っている。エメラルドグリーンの水をたたえる鬼怒川と妖しいまでの極彩色の紅葉の美しさに時間感覚を忘れ、思わず見入ってしまった。

しばしの小休止を経て再び歩き始めた先には材木を立てたような岩肌「柱状節理」と「五光岩」があった。「柱状節理」は通称“材木岩”とも呼ばれ、マグマが地下の浅い場所で冷却された際に出来る多角形状の岩柱で日本各地の渓谷で見られる特徴的な造形物だ。また「五光岩」は流水により巨大な岩塊を貫通した穴にたまった水が、天候により五色に見えることから名付けられたという。いずれも大自然の芸術品だ。散策路には何箇所かにこういった興味深い地質の説明もあり退屈しない。

19 青龍峡 兎はね s.jpg
20 青龍峡 柱状節理 s.jpg23 青龍峡 五光岩 s.jpg21 青龍峡 カット s.jpg

道を進むとほどなく視界が開け、数人のハイカーが渓谷の岩場に降り何やら熱心に記念撮影をしている姿が飛び込んできた。傍らの説明板には「大観」の文字。狭い道を慎重に岩場へと下りてみると、そこには青龍峡を一望する圧巻な大景観が広がっていた。その姿はまさに水の龍が上流へとのたうちまわりながら進んでいく姿を彷彿とさせる。

24 青龍峡 大観紅葉 s.jpg

秋のオーケストラを楽しむ
森のS席へ。


「むささび茶屋」へといざなう道は、視界も開け広い森の中へと続いていた。しんと静かな気配に耳を澄ませば、鬼怒川のせせらぎに重なり合う木々の葉擦れ、歩くたびにカサコソと小気味よいリズムを奏でる落葉の絨毯の音色と、意外に騒々しい秋のオーケストラに気付く。「ツツピー、ツツピー」と愛らしい姿とともに得意げにその喉を披露するシジュウカラも加勢し秋の森の音楽会は続く。

26 青龍峡 道 s.jpg25 青龍峡 道2 s.jpg28 むささび茶屋 s.jpg

川を南下する青龍峡のゴールは「むささび茶屋」。すぐ脇には整備された立派な公共トイレもある。行楽のベストシーズンだけあって茶屋は多くのハイカーで盛況だ。店の看板メニューは50年続いているという秘伝みそのおでん。茶屋には龍王峡に自生する植物たちを写真と解説で丁寧に綴った手作りのアルバムが置かれ、ハイカーたちの会話を弾ませている。私も仲間に混ざり茶屋で一服の英気を養った後、今日の行程のゴールを目指す。前回、突然の驟雨に遭遇したむささび橋。先日の名残惜しさも含め、秋まっさかりの景色を橋上から何度もカメラに収めた。確かこの地点が青龍峡と白龍峡の境目だったはずだ。

30 むささび橋より鬼怒川方面紅葉3 s.jpg
31 白龍峡 あるく人2 s.jpg32 白龍峡 かめ穴 s.jpg


紫龍峡から青龍峡。
そして白龍峡を訪ねる水の旅。


橋を渡り前回と逆のコースで虹見橋方面へと歩く。コースのハイライトとも言えるこの付近の散策路は、驚くほどのハイカーでひしめき合っている。交わす挨拶の頻度にさすがにシーズンだと思いながら、景色を収めるのも忘れ黙々と道をたどる。このあたりのコースは多少、高低差がありやや健脚向きかもしれない。「虹見橋」は時間にすれば15分程でたどり着ける。途中には木道も整備され、網目のように岩盤を流れる美しい小川やモリアオガエルの生息地の沼地、竪琴の滝といった景色が迎えてくれる。

ゴール直前の「虹見橋」で川を渡る秋風に包まれながらの再ショット。凛とした空気に縁どられ、いよいよ蒼さを増した水の色は総天然色の名画のようだ。龍王峡の名の由来ともなった「五龍王神社」に完歩の報告をしたあと、晴れ晴れとした気分で空を仰ぎ、名残惜しい思いで市営駐車場へと続く龍王峡入口の階段を上ってゴール。

34 虹見橋より鬼怒川方面紅葉 s.jpg
36 虹見滝と五龍王神社 s.jpg37 虹見橋 紅葉 s.jpg

のどかな山河の景色に郷愁を重ねる白龍峡、巨石と極彩色の紅葉が妖艶な魅力を放つ青龍峡、そして龍王峡随一の絶景でハイカーたちに最も人気のあるむささび橋巡回コースのある紫龍峡。紫から青、そして白い世界へ。上流から下流へと流れのままに龍王峡のすべてをたどる約2時間の行程は、図らずもやがて訪れる白い季節への序章のようだ。あでやかな色打掛から白無垢姿へ。普通とはちょっと真逆のお色直しだが、それも一興。真っ白な雪の衣裳に身を包んだ川の女神、弁財天のお嫁入りはもう少し先、と言ったところだろうか。


【龍王峡/白岩半島から虹見橋】詳細


龍王峡白青紫ガイドマップ.jpg


                                                         
■大観
青龍峡を見晴らす絶好のビューポイント
24 青龍峡 大観紅葉.jpg

むささび茶屋から川治温泉方面へ少し進んだ所にあり青龍峡が一望に見渡せる景勝ポイント。峨峨とした岩の連なりと清流とは自然が作り出した芸術品。全国観光地百選 渓谷の部で第5位にランクされた絶景。


■五光岩
水と岩が創り出したダイナミックな造形美
23 青龍峡 五光岩.JPG

岩質の硬軟が不均一の凝灰岩が流水の洗掘によってえぐられ河床の岩の下部が洞門となった龍王峡の景勝地のひとつ。かつては穴の中にたまった水が天候によっては五色の色に変化して見えたことから名づけられた。穴の中は畳10畳敷ほどの広さがある。


■柱状節理
規則正しい層に見る、太古の地球の鼓動
20 青龍峡 柱状節理.JPG

別名材木岩。地下から上昇した溶岩が地表の浅いところで冷却され固まるときに収縮してできた規則的な割れ目(節理)を持つ岩体。割れ目の幅は、一般に冷却速度が遅いほど大きくなると言われる。通常、多角形の柱状形をしており、国内では六角形のものが最も多くみられる。龍王峡にある柱状節理は緑色凝灰岩を貫いた岩脈の一種であるひん岩。


■兎はね
青味を帯びた岩たちの不思議な競演
19 青龍峡 兎はね.jpg

河床に見える岩盤の幅が4mほどの細い廊下状になっており、兎が跳ねて渡れるほど狭いことから名づけられた。緑色凝灰岩が分布する青龍峡の最上流に位置し、地層的には緑色凝灰岩の最下層にあたり、基底らく岩から出来ているため岩質が硬く、河川の浸食作用に耐えてできた形だとされる。


■白岩半島
龍王峡唯一の河岸あそびスポット
11 白岩半島 突当.jpg

奇岩怪石の龍王峡で唯一川原に下りることができるスポット。このあたりは川幅も大きく流れが蛇行し、白く輝く河岸で川のせせらぎを聴きながら小休止するハイカーも多い。


posted by kinugawaaruku at 16:15 | 日記 | 更新情報をチェックする
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